C型肝炎ウイルス
HCV培養細胞系の開発
抗ウイルス剤を開発するためには2つのことが必要になります。1つ目は、薬剤のライブラリーで、2つ目は、薬剤のアッセイのための培養細胞です。動物モデルについては、チンパンジーが唯一のHCV感染が可能なモデル動物ですが、倫理的、経済的理由から現在では実験に使われていません。
HCVは1989年に発見されてから、現在に至るまで、HCV陽性血清を細胞に感染させて、増殖させる方法ではウイルスを分離することに成功していません。その代わりに、化学合成をしたHCV遺伝子を細胞内に導入して人工的なウイルスを作成するリバースジェネティックス法によりウイルスを増殖させて実験をしています。
1999年に人工的なHCVの複製のみ可能なレプリコンシステムがドイツのグループにより開発されました (Lohmann et al. Science 1999)。2005年には、感染性ウイルスクローンを用いたJFH-1感染システムが日本のグループにより開発されました (Wakita et al. Nature Med, 2005)。この2つの発見はブレークスルーとなりHCV研究を発展させ、現在の新薬開発に至っています。
もう1つ、重要な発見として忘れてならないのが、1982年のヒト肝がん細胞株HuH-7の樹立です(Nakabayashi et al. Cancer Res, 1982)。HCVは非常に繊細なウイルスでHuH-7細胞株以外では効率良く増殖できないため、HuH-7細胞株がなければ、いまだに、HCVに対する薬剤は開発されていなかったかもしれません。
当分野では岡山大学との共同研究で、全長HCV (遺伝子型1b, O株)に薬剤耐性遺伝子とRenilla luciferaseを組み込んだ全長HCVレポーターシステム(OR6)を開発しました (図1)。OR6アッセイシステムを用いてこれまでに、スタチン剤(高脂血症治療剤)、テプレノン(胃薬)、5-HETE (アラキドン酸代謝産物)、N251(抗マラリア剤)などの抗HCV活性を報告しています。また、OR6アッセイシステムは国内外の多数の研究施設に提供実績があります。
また、岡山大学との共同研究でHuH-7以外に、HCVの増殖が可能な細胞株である、ヒト肝がん細胞株由来のLi23を用いて、全長HCVレポーターシステム(ORL8)を開発致しました (図2)。ORL8アッセイシステムを用いると、HuH-7では低感受性であった、リバビリン、IFN-λ、メソトレキセートなども高感受性となるために、抗HCV活性の機序を研究できるようになりました。
現在、2種類の細胞株 (HuH-7およびLi23)と3種類のHCV株 (O、1B-4 およびKAH5)を組み合わせた計6種類のアッセイ系が開発済みであり、細胞株の違いや、HCV株の違いによるきめ細かい薬剤のスクリーニングができる体制になりました (図3、図4)。