B型肝炎ウイルス

HBVに関わる肝細胞内環境因子

B型肝炎ウイルス(HBV)が持続的かつ効率よく増殖することが可能な培養細胞系は現在開発されておらず、このことがHBVライフサイクルの解明及び、抗HBV剤の開発を困難にしている原因と考えられています。HBVの受容体として同定されたNTCPは培養細胞株ではほとんど発現していません。また、肝臓特異的転写因子の発現も培養細胞では正常の肝臓とは発現パターンが変わってしまっています。


当分野では、これらの宿主因子に着目し、HBVの増殖に適した細胞内環境を実現して、HBVが持続感染できる培養細胞系の開発を行っています。HBVが感染して細胞内で増殖して再感染するためには、HBVの受容体が細胞に発現していなければなりません。HBVの増殖が可能なHepG2にHBVの受容体であるNTCPを導入して作成したHepG2/NTCPmyc細胞では約4ヶ月にわたり培養上清中に感染性HBVの産生が認められました(図1)。

図1 NTCP導入HepG2では長期にわたり感染性HBVを培養上清中に産生する

肝臓には肝臓特異的な転写因子群がありますが、肝臓と肝細胞株ではその発現パターンが異なっており、このことが、培養細胞でのHBVの増殖を阻んでいる原因の1つと考えられます。そこで、導入した転写因子をテトラサイクリンで誘導するシステムを用いて、転写因子とHBVの増殖について検討しました。HBVの増殖には影響しない転写因子もありますが、FOXA2はHBVの増殖を負に制御し、HNF4αはHBVの増殖を正に制御することがわかりました (図2)。

図2 肝臓特異的転写因子群はHBVの増殖を制御する

薬剤の溶媒として用いられるDMSOは細胞の増殖に影響を与えることが知られています。DMSOをHBVが増殖するHepG2/NTCPmyc細胞に添加するとHBVの感染効率が増強します(図3)。また、DMSOは肝細胞の転写因子にも影響を与えます。HepG2/NTCPmyc細胞にDMSOを加えると、FOXA2の発現が抑制され、HNF4αの発現が増強されることがわかりました (図4)。DMSOは、HBVの感染効率を改善するだけではなく、HBVが増殖しやすい細胞内環境に誘導していることが明らかとなりました。

図3 DMSOはHBV感染効率を増強する
図4 DMSOはFOXA2の抑制とHNF4αの増強によりHBVを増殖させる

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