研究内容
人類の感染症との戦いの長い歴史の中で、HIV(ヒト免疫不全ウイルス)感染症に対する多数の治療薬の開発は特筆すべき成功例の一つであると言えます。しかし30年以上にわたる研究にもかかわらず、感染の予防に効果的なワクチンの開発には至っておらず、薬物療法に関しても現在の薬剤ではHIV感染細胞を完全に体内から駆逐し治癒をもたらすことはできないため終生にわたる服用が必要です。私たちはこのような難治性ウイルス、特にHIVを中心とするレトロウイルス感染症の治癒を可能とする新しい治療法の確立を目指しています。
鹿児島県を含む南九州地方は古くからレトロウイルスの一種であるHTLV-1(ヒトT細胞白血病ウイルス)の感染者が多いことが知られており、関連疾患であるHAM(HTLV-1関連脊髄症)やATL(成人T細胞白血病)などの研究が盛んに進められており、それにHIVに対する研究が加えられることでレトロウイルス研究が大きく進展しております。ウイルス治療薬開発研究の権威である当教室の前任教授:馬場昌範先生を始めとする鹿児島大学の諸先生と連携して、レトロウイルスに対する研究を進めてまいります。
2020年に突如世界を襲った新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)感染症は未だにパンデミック収束に向けた出口が見出せておりません。しかし、わずか2年の間に人類は新しいワクチン(mRNAワクチン)や治療薬を次々に開発、当初は対抗する術がなかった未知のウイルス感染症に対抗し撲滅するための手段は徐々に増えつつあります。SARS-CoV-2はレトロウイルスとは全く異なる種類であるRNAウイルスであり、感染によって引き起こされる臨床症状も全く異なります。しかしウイルスの感染・増殖のメカニズムにはウイルス間で共通のものが多くあり、豊富な経験を有する日本内外の多くのHIV研究者が新型コロナウイルスの治療法開発に速やかに参画、大きな業績を残しています。
研究内容
HIV感染症に対する治療薬の開発
これまでに開発されている薬剤(逆転写酵素阻害剤、プロテアーゼ阻害剤、インテグラーゼ阻害剤など)に加えて、これらの薬剤ではできないHIVの完治(治癒)を可能とする新しい作用機序の治療薬(治療法)の開発を進める。
HBV感染症に対する治療法開発
HBV(慢性B型肝炎ウイルス)はHIVとは異なるDNAウイルスであるが、増殖の過程で逆転写のステップがあることが知られており、HIVとHBVの両方に効果のある薬剤(逆転写酵素阻害剤の一部)があることも知られている。逆転写酵素阻害剤や標的酵素(逆転写酵素)の構造解析などからHBVに特化した治療薬の開発を目指す。
CMV(サイトメガロウイルス)感染症治療薬開発
CMVはヘルペスウイルスの一種であるが、新生児や免疫不全状態(抗がん剤治療など)の患者において致命的な重症感染症を起こすことがあり、より有効な治療薬の開発が各種の悪性腫瘍の治療効果の改善につながることが期待される。
SARS-CoV-2に対する生体の免疫応答の解析と治療開発
新型コロナウイルス感染症対策の基盤であるワクチン接種における抗体産生(免疫応答)の動態解析を行ってきた。今後はより多くの感染者の重症化予防に迅速・簡便に対応するための内服薬がさらに重要となってくるため、外来での治療が可能な新規の経口内服治療薬の開発研究を進める。
各種レトロウイルスにおける感染・増殖のメカニズムの解析と治療標的の同定と新規治療法の確立
南九州地方は古くからHTLV-1(ヒトT細胞白血病ウイルス)の感染者が多いことが知られており、関連疾患:ATL(成人T細胞白血病)やHAM(HTLV-1関連脊髄症)などの研究が盛んである。HTLV-1の増殖や病原性の発現に関与する因子の同定とそれを標的とする治療法の検討を行う。